日記③ 生徒一人一人に合う教材? それって本当にできます?

2024年10月18日

 講師になりたての頃…塾用の通年教材、講習会テキスト、教科書ワークを5冊も6冊も以上並べて授業で扱う問題を検討した。入試前は、東京都の問題だけではなく、実際に生徒に解かせたい「過去問」を本屋でさがし、研究するために購入した。徹夜も苦にならなかった…若かったんだなあ、と思う。

教材屋さん:「いい教材で来たんですよ~」

僕:「あっ、そうですか。見せてもらえます」

教材屋さん:「この教材、多くの塾で採用していただいていますよ」

僕:「××区だと何件の塾?この辺だとどこの塾?」

教材屋さん:「大手の塾でも採用されています。シェア率も高いですよ」

僕:(答えになってないじゃん)…「今年も、教材は責任もって自分で作る予定。単科の授業内容も合わせて考えて。」

教材屋さん:「面倒くさいじゃないですか。では、オンデマンドで問題を選んで、表紙も先生の塾名を印刷した教材はどうですか」

僕:「講習会なんかは、生徒の進行度合や突然の質問で、内容が変わる場合もあるのよ」

教材屋さん:「とりあえず、サンプル、置いていきますよ。検討お願いします」

僕:「そう、サンプル置いていってくれるなら、全教科、解答・解説もよろしくね。後、他の学年、他の教科も後で送ってね」

教材屋さん:「基本的に解答解説はサンプルにはつけないことになっているんですよ」

僕:「だって、1冊全部終わらなかったときに、生徒が自分で解答・解説が見て分かるかどうかは、大切でしょ」

教材屋さん:「先生、自分でも教材お作りになるじゃないですか。解説、解答は想像つくんじゃないですか」

僕:「この塾では、若手もベテランも全員、予習して授業に臨みます。もし、××さんの教材を使うことになれば、一分でも早く教材を手に入れて予習したい先生もいる。特に若い講師は解説も参考にすると思いますよ」

教材屋さん「答えなら、先生方は自分で解いて出せるんじゃないですか」

僕:「会議の時は、問題のチョイスだけではなく、基本事項の説明部分、テキストの見やすさ、ヒントの書き方や程度、レイアウト、解説・解答の内容など様々な角度から教材の選定を行います。その後、そのテキストを使って実際に模擬授業もやりますよ」…

 これは、僕が一教室で300人近く生徒がいる塾に勤めていた時の会話の内容の一部である。

 「生徒一人一人に合わせた授業」は、「集団授業」や「(先生)1対(生徒)2以上」の個別授業では、限りなく不可能に近い。可能性があるのは「1:1」の個別授業だ。それでも「1:1」の授業であっても欠点があり、すべての生徒に結果が残せるとは限らない。

 もし、万が一「100%」一人一人に合ったぴったりの授業ができる「テキスト」があるのなら、全員内申点が上がり、その「テキスト」で学んだ生徒全員が「100点」を取らなければおかしなことになる。

 あそこの塾の先生がいい、成績の良いAちゃんも通ってる、あの参考書、あの塾の教材がいいらしい…しかし、実際に竿の塾に通い、あるいは、参考書や問題集、教材を手にしても、なかなか我が子の成績が思うように上がらない…。

 お子さんが実際アセって勉強するのは、気に入っている(理由はいろいろあるが)塾に対して、親が、「成績上げらないなら、塾、やめさせるよ」と言われるときだったりする。

 だからこそ、我が子にぴったり合った塾選びは、「家選び」と同じくらい重要だ、なんて言う塾の経営者も出てくる。入塾金、授業料、講習会費、教材費、講習会のテキスト代、入試前の特別授業、特別授業向けの教材費、冷暖房費…。金額もさることながら、自分の子供の「中学受験」「高校受験」「大学受験」という人生の勝負がかかっているのだ。

 教材、先生との相性、宿題の量、自分の子供が目指す学校の合格者がそこの塾にいるかどうか、気になるところだろう。では、「テキスト」についてはどうか。面談を30年以上やってきて、「テキスト、何を使っていますか」と聞かれたことは、数えるほどしかない。

 集団授業の場合(5名であっても10名であっても関係ない…先生の目が届いても、注意できない、指示ができない、生徒に迎合するような先生だと意味がない)、「同じ教室(環境)」「同じテキスト」を使い、その日の「授業のノルマ」を講師がこなしていく。

 特に「3クラス」程度しかクラス分けがない場合、国語と英語は「上のクラスの力」があっても「数学」の実力が一つ下のレベルの生徒もいる。逆に「国語」だけ苦手、「英語」だけ苦手な生徒もいる場合が多い。各学年、一人一人国数英を「きちんとレベル別」に分け授業をするためには、時間通りに授業を終え、休み時間に講師、生徒とも教室移動、各時間、3教室、3人の先生が必要になる。当然、中1、中2、中3と3学年なら、3クラス、3時間授業で単純計算すると、9教室、9人(国数英各学年担当3人×3クラス分)の先生が必要だ。この方式だと、相当生徒の人数、講師がいないと、塾の経営が厳しいのは予想できる。

 授業がうまい、と言われる先生は、授業中、全員に一回以上声をかけ、当てながら、生徒自身が手を動かすよう授業を進める。おまけでちゃんと笑いをとる。でも、生徒のノリ、集中力があり、盛り上がる授業ができたとしても、帰りの小テストではなかなか「全員100点」とはいかないことが多い。

 「先生1:生徒2」の個別の場合、確かに見た目は、「集団」よりも「濃い」授業だと思うかもしれない。しかし、講師(先生)は、二人の生徒に同時に声をかけたり、二人に同時に説明をすることは不可能だ。一人が、「演習」をしている間、もう一人に「説明」や「解説」をする。一人が「漢字の直し」をしている間、もう一人は「英語の長文問題」の解説を受ける…これでは、授業の半分は「損」している、と考える人も出てこよう。

 たとえ、同じ教科、同じ範囲だとしても、「最初」の「基本的」な「説明部分」を同時にできるだけと言うことも多い。演習が始まると一人一人スピードが異なり、見る時間に偏りが出てくることが多くなりがちだ。積極的に質問する生徒が得をする傾向が強い。

 まあ、英語の「コミュニケーション」や現文などの教書の「音読」であれば、範囲が一緒であれば、一文ずつ読む、一人が読み、一人が訳す、あるいは講師が途中で説明を入れる、などの技は使えるが、教科が違う、単元が別々、学年が違うような場合はこれも難しいだろう。

 慣れていない若手講師たちが、「模擬授業」をすると、必ず「今、もう一人の生徒は何をしているの。それって放置してない?」と教室の後ろから声が飛ぶ。受け持っている二人の生徒の、読むスピード、書くスピード、解くスピード、その日の授業の進め方、問題解説の配分、声をかけるタイミングなどを、完全に「授業」を「シュミレーション」しておかないと「個別」でも良い授業はできない。「自分が解けるだけ」ではダメあのだ。

 昔は、教材を見比べて、講習会や対策授業のテキストを自作する講師が少なくなかった。塾教材を見て「いい問題だなあ」と思いつつも、「なんか本物とチゲーな」と感じる講師も多いのでは?と思う…この場合の本物とは、「中学校・高校の過去問」であり、「実際の入試問題」のことを指す。次第に、不満を解消するために、生徒の志望の過去問や類似している入試問題をアレンジし、設問を自作し、解説の「授業プリント」を作るようになる。

 今は、少し値は張るが、「塾教材」も「オークション」や「ネット」で購入することができる時代だ。

 一般的に、塾が生徒の保護者からいただく教材費は、「塾専用教材」ということで、1.5倍、時によっては3倍になることもある。

 それでも、ネットやオークションで購入するよりは「塾」で購入する方がお得な場合が多い。

 実は、学校用教材(学校で配られるワークや問題集)も一部の出版社を除いて購入可能だ。

 もし、学校用教材(数学や生物や物理の解答が欲しい人もいよう)を買う場合、「オークション」の新品(解答付き)教材の平均の値段は5,000円前後。たとえ、「解答のみ」でも、そんなに安くはならない。

 いらぬ『おせっかい』だが、オークションで「塾教材」や「学校教材」を購入する場合は、買おうとしている「ブツ」が最新版(生徒が使っているものと同じ)か、解答がついているかを必ず確認して購入されたし。ちなみに、教科書販売会社では、中学校・高校用の問題集やワークの解答は手に入らないのが一般的だ。

 さて、なぜ、講師が「塾教材」選定の際、どこに興味をもつのか、保護者の方としては気になるところだろう。「国語」であれば「載っている問題文」が良いのか、「設問」の質がよいのかなどを見る先生もいる。「数学」であれば、「計算問題」と「応用問題のバランス」「問題の質」などを気にする方もいる。「英語」であれば、「文法の説明部分が自分の教え方と合っているか」や「例文」や「長文」が良質がどうか、「英作文」や「整序」などが充実しているかどうか、「長文問題」の「設問内容」が考えられているか、などを見るかもしれない…英語の場合、今だに、読めれば正解できるような選択肢は多い。

 今、「目の前にいる生徒たちに教えたい」「目の前に生徒に解かせたいのは、このテキストじゃねえ」…結果、講師たちは、「自作のテキスト作り」に『暴走』しがちだ。自分も、講習会前、対策授業の直前、徹夜で、テキストを何度も見直し、作り直した。生徒の顔を一人一人思い浮かべながら…前日に一から作り直したこともある。

 しかし、そういう教材でも、「生徒一人一人」に合ったテキストはなかなかできない。お子さんが「通っている」塾の「それぞれのクラス」の「やや上位の生徒」に合わせたテキストができるだけのケースが多い。作ったテキストをどう料理して「授業」するか。ここが講師の腕の見せどころである。

 「そんなことはない」と思うのであれば、「塾の夏の講習会のテキスト(オリジナルでも塾教材でも構わない)」を、今、ランダムに友達に問題を選んでもらい、25題、解いて見れば分かる。先にも書いた通り、「対策授業を受けた」「講習会を休まずに受けた」からと言って、授業を受けただけでランダムに選んだ25題の問題が「100%」スラスラ解けるようになっていることは、まず、ない。

 「あの先生の授業、良かったね」という生徒は多いが、「あのテキストの30Pの問題、サイコー、これだけで金払う価値がある」と言う生徒は少ない。

 時間がなくて、講習会中、消化できなかった「テキストの問題」については、「解答を配るので、自分で解いてね」と伝えるのが一般的な塾の姿勢だ。そして、この言葉に応える生徒はクラスに1人か2人いればよい方だ。講習会テキストが、授業内で「完結」するケースは本当に少ない。

  教える側にとっても、テキスト選びは…実に難しいのだ。自分はほぼ自作の「プリント」で授業をしていたが、よく、上司に「先生、生徒に買わせてるんで、3割程度はテキストを使ってくださいよ」と言われていた。

 そろそろ、2学期の定期テストを意識する時期だ。せめて「国語の教科書」の文章に何が書いてあるか読んでおこう。数学の教科書の例題・類題ぐらいは解けるように手を動かそう。英語の教科書を音読し、意味の取れない文、分からない単語・熟語、文法事項ぐらいはチェックしておこう。それが、明日への一歩につながる。