日記 三十四の巻

12月 第4週日曜:中学生に英語を教える立場になって「can」についての悩みを抱えている、大学生の新人講師、かつての教え子に凸られる

▶徹夜でプリント作りをした朝は、外に出たとたん、太陽の強烈なストレートが目に決まる。開いている右手で、ひさしを作る。寝不足でふらつく足を無理やり動かし、急いで、日陰に入る。

・まだ、「通勤ラッシュ前」の静かな「国道」の交差点を渡り、「松屋」に入る。「う~ん、うまい」…授業準備をした後の「牛定」はたまらん。なんせ、北海道の地方都市では、冬の「松屋」に行くのもある程度「遭難」覚悟やからな。やっぱ、東京はええわ。

▶6時間後、凄まじい工事の音で泥のような眠りを中断させられる。

・他にすることもないので、歩いて10分の「イオン」まで出かけようとしたが、なんか、面倒くさくなった。交差点を渡り、気が付くと「勤め先」の塾の階段の下…あれ、自分、こんなに塾好きやったっけ?

▶「ん」階段の上で何か動いている。「誰や」。

・とりあえず、寝ぼけた頭を回す…午後1時、社長や塾長が塾にいる確率は自分の経験上、2%(1年に7回程度は見たことがある、たたし、講習会で授業を持っているときを除く)、

・この時間に塾にいる可能性が高いのは、V先生か自分や。でも、スカート履いとるよな。もし、質問でセンセと約束しとって、センセが遅刻してるんやったらかわいそうやし。とりま、行くか。事務所のカギもっとんの、塾長と塾長とVV先生と自分だけやしな…。

▶あれやこれや考えんながら、上がっていく。

▶「おはようございますぅ。センセ、待ってたんやで、ウチ」

おいおい、なんでここにおるん?びっくりしすぎてぜんぶひらがなになってまうわ。

「おう、❑○、こんな時間にどうしてん?自分、授業は夜やろ」

「ちょっと聞きたいことあって」

「誰に」

「誰にって、冷たいな、センセ。センセに決まっとるやんか」

へっ、なんかむねがくるしゅうなってきたで。

「ま、ええわ。今カギ開けるんで、とりあえず、中に入れよ」

「すみません、Oセンセに聞いたら、この時間やったらセンセいる、って聞いたんで」

…300人近く塾生がおって、卒塾生もいっぱいおるのに、何でみんな自分のこと「センセ」って呼ぶねん。「Tセンセ」って呼ばれるの1年に「2回か3回」しかないで。しかも、その内訳は、他のセンセを呼んでると思って返事せんときに、ほぼどなれて名前呼ばれとるで、なめられとるんかな?

「あのな、センセ」

「ちょっと、待てや。荷物ぐらい置かせてくれや」

「ちょっとセンセ」

「コーラぐらい、飲ませてくれや」

「ウチも、飲んでええ?」

「ま、講師やから、ええやろ」

「じゃあ、買って」

なんや、コイツ????

「分かった、分かった。で?」

「今日、中2に教える『can』のことなんやけど…ちょっと教えて欲しいんや」

「じゃ、白板のある教室に行くか?」

「うん」

・教室に入ると、ノートをおもむろに取り出す❑〇。

一応、自分で調べてはきたんやけどな…」

ちらっと見ると、「能力」「可能」「許可」と言う文字がチラホラ見える。『❑〇、canの訳』言ってみよか」

「えっ」

能力ってなんやねん」

「~できる

「可能ってなんやねん」

「え?~できる

「じゃ、canの可能性をどう訳す?

~する可能性がある、~である可能性がある

「さすがやな、can doとcan beな。」

「じゃあ、許可は?」

「~してもよい

「せやな、結局、できる、可能性がある、してもよい、が教えるべき代表的な訳や。」

「なるほど」

「自分の授業では、教室で必ず『can,can,can,できる、してもよい、可能性がある』って10回ぐらい大合唱すんねん」

「いやや~、恥ずかしい」

何に言うてんねん、自分。生徒、メッチャ喜ぶし、勉強のストレス解消になるし、訳覚えられるんやで。」

とりあえず、「can,can,can,できる、してもよい、可能性がある」とメモる❑〇。

大合唱でノリノリになっとるとこやで。そこでな、今までの「SV」「SVC」「SVO」「SVOO」なんかの「V」の部分を『can+動詞の原形』に変えるだけでとりあえず、平叙文の完成や。

「えっ、そんな」

「❑〇、私は本一冊を買います、って現在形でなんて言う?」

「Ibuy a book,」

「私は一冊本を買えます(買うことができます)にすると」

「I can buy a book. なるほど、この場合やったら、本屋で参考書買いたいとき、2冊買うお金がないとか、2冊は必要ないとかいう感じやね。確かに、習った文をcan+動詞の原形にすれば…」

「これを疑問文にすると?」

Can you   buy a book?」

ここな、ここ。動詞のかたまりが2つ以上(この場合は can buy)になったとき、その動詞のかたまりの先頭(この場合はcan)を前に出して疑問文を作る。これ、スーパー大事な規則よ、完了形でも受け身でも進行形でもドンと来い!

「えっ、はじめ聞くんやけど、ウチ」

「❑〇は、高校生からきて、自分に習ったの、2,3回やろ。中学生なら、みんな聞いたことがあるはずなんよ。あまり参考書には載ってないねん」「ところで『彼女は一度大阪に行ったことがあります』って現在完了あるやろ」

「She has been to Osaka once.」

「それ、動詞のかたまりhas been よな。疑問文にすると」

「あっ、Has she   been to Osaka once?」

「これ、理解すれば、has で聞かれてとんのやからYes, she has./ No, she hasn’t.やろ、って講師、胸張って言えるやろ

「いや、ちょっとびっくりやわ」

「進行形でも一緒やよ。自分学校に行くところやってん、ってなんて言う?」

I was going to school then.」

「疑問文にすると…」

Were you   going to school then?」

「まあ、be動詞やhave/hasが先頭の場合は、当然、主語によって使う動詞は変化するけど…」

「うん、分かりやすい。2つ以上、例えば、現在完了進行形(have/has been doingのように「 述語動詞部分の構成が2語以上」)の文を疑問文にする場合、動詞のかたまりの先頭を疑問文の主語に合わせ、先頭に出す

「ええな、それ、今後、自分のプリント、それに書きかえるわ」

「ホンマ、ウチの考え、採用されたん、ちょっと…ウチ、やるやん」

「ま、講師との会話もこういうことがあるんで大切なんや。

▶「センセ、話、戻すで。今日は、中2の授業やから『できる』と『してもよい』が中心なんよ」

「そうか、でもな、どうしても『できる、してもよい、可能性がある』という3つの訳は最初に生徒に教えて欲しいんや」

「なんで…一つずつの方が分かりやすいやん」

「そう思うやろ。生徒、『できる』って習った後、次にcanが『してもよい』の「can」が出てくると、えっ、『can』って、『できる』じゃないの、何でって拒絶反応起こすんや

「えっ」

だから、最初に、3つ、大きな使い方があるんやけど、今日は『できる』『してもよい』『可能性がある(ない)』のうちの『できる』と『してもよい』を勉強するよ、って言って欲しいねん

「そうかぁ」

「あのな、例えばな『現在進行形』習ってできるようになった生徒が、『過去進行形』になるとまるで新しく出てきた別物の単元のように感じると、突然できなくなるんよ。動詞のかたまりの先頭のBe動詞を過去に変えるだけやのに」

「あっ、分かる。前に、教えたとき、まさに、その状態やったわ」

「受験には3つの訳、すべてが必要になる。だから、やり方は色々あるけど、最初の導入がものすごく大切なんや

「勉強になるよ、センセ」

「後で教えるときにな、canの訳、3つあったよね。今日は『可能性がある』を勉強するよ、って言えるやん」

「そうか、この前授業で言うたけど、『can』の3つ目の訳、覚えとる、って授業を始められるね」

「そうそう、助動詞を教えるときに講師に知っておいてもらいたい大事なことがあるんや。助動詞の「過去形」はメッチャデリケートやからな。ていねいに扱わんとアカンよ」

「えっ、そうなん?」

「まずな、『can』の『婉曲(お願い)Could you 動詞の原形~?』がをみた時に、『~できますか→してくれる(できる?)→できればしていただけませんか』と言う具合に、バラバラではなく、最初の基本の訳から説明をつなげんねん

「スゴ、何か、最初の3つの訳の重要性、分かってきたわ」

「特に助動詞の『過去形』を教えるときは、『could』と『would』は超クセもので生徒泣かせなんや「助動詞」の時制は実は、ふわふわしとんねん。中学校で「仮定法」までやるんなら、ある程度、基礎を固めてやらんと高校になったとき英語ヤバいことになるで」

「中2のときは、『could』って過去形は『できた』『~してくれませんか』だけ教えるとダメなん?」

「あのな、❑〇、Could you tell me the way to the station? 訳してみ」

「そんなん、すみませんが、駅までの道教えてくれませんか、や」

「このcouldって「できた」じゃないし、ここでは過去のことじゃないやろ、現在形なん、それとも、この先のことを頼んでるから未来形なん」

「えっとー、ちょっと待って」

「少なくとも、これ今の気持ち』よな。そして、助動詞ってのは、『遠慮』や『お願い』など気を遣わなアカン場合『立場上その人との心の距離ができる、襟を正したり、言葉遣いを考える』そんな時に『Could you 動詞の原形~?』を使うんよね

「そうか、少なくとも今、相手にお願いする気持ち…普段と違う、『遠慮』という相手との距離間を表すんや」

「あんな、金くれや、ってなんて言うん」

「Give me money.」

(親に)お金くんない、やったら」

Can you give me (some) money?

「じゃあ、すみませんが(できれば)お金をいただけませんか

Could you give me (some) money?」→一応、教科書に沿うけど、これ、そこまで丁寧じゃないで。

「まあ、他にも『if』を使った表現もあるけどここまででいいやろ。どう?だんだん丁寧になってきて、頼むときは、『can』じゃのうて「could」よな。ちょっと中学生には分かりにくいと思うけど…『社長、お金前借してください、ってときにCan you~?』はさすがにないよな、って思ってくれればええよ」

「ま、実際はそうは思てなくとも気を遣う距離、それが「助動詞の婉曲」、ある意味、日本的でもあるかもね」

「さすがねや。あとな、ひょっとしたら可能性があったらええな、って今の気持ちを表すときも『could』使うで」

「それ、さっき本屋で文法書あさったときに見た」

「ん『ロイヤル英文法』でも見たん?」

「恥ずいから言わん。センセは調べるときの本、何を使ってるん?」

「自分、ずるいな~。人のだけ聞いて。最初に見るのは、図書館にあるデッカイ英和辞典、次に江川奏一郎先生の英文法解説、最後にネットかな」「あれ?どこまで話した?」

可能性のcould。今までのセンセの話やと、『可能性がある』が今の気持ちやとすれば、気持の距離が離れる感じよね、『より可能性が薄くなる』『ひょっとしたら可能性があるかも』ってこと」

「その通りや。」

どうせなんで、couldとwould の話をするわ。この2つ、『時制の一致』や『助動詞の過去形+完了形』でも使うんやけど、通常の形『could 動詞の原形』で過去を表す場合があるで」

「それ、覚えてる。そのドアは決して開かなかった(開こうとしなかった)

「そうやね」

The door wouldn’t open.」

「これ、モノだけじゃなくて、彼は決して口を開こうとしなかった、みたいなんでも使うよ、強い否定の意志『絶対~せん』」

「せっかくだから、『could』も使うか。カギがなかったから中に入れなかった

「soでいい?I didn’t have the key, so I couldn’t get in.

「さすがやね。これが、一応、『過去を表すcouldの例』

「まあ、他にも、可能性の否定と言われる『強い否定のcan’t はずがない』も大事よな」

「センセ、お願いがあるんやけど…」

「何?」

「ウチ、今教えてもろたん参考にして『❑〇オリジナルプリント、今から作ろ思ねん」

…嫌な予感…

「帰るの、面倒やし、せっかく教えてもろたこと忘れたらもったいないし、センセのPC、貸してえな、ええやろ」

ううっ…心の中に、再びビーヤマが登場、「ヤメロ、オマエ」…

❑〇は、教室から一直線?に講師室に向かい、平然と自分の机の前に座り、猛然とプリント作りを始めた。

そこ、オマエの席ちゃうやろが。

ここまで、お付き合いいただき、ありがとうございました。

〈ひょっとしたら「続編」あるかもねのcouldや〉