日記 三十の巻
12月 第3週火曜 春のようにやさしい日差しが降り注ぐある冬の午後に、再び英語得意ジャンな〇●が、かみつく! Can you tell me the way to the station? – I’ll take you.は減点か。
▶休憩時間は、講師にとって貴重な時間である。講習会であれば、一日のうちで、一コマあればええほう、ひどいときは、朝の8時40分~午後10時まで、食事休憩を除いてほとんど授業、なんてこともある。単科なんて持った日にゃ、1コマ90分休みなしや。空き時間は、好きなものを食べたり、読書をしたり、睡眠を取ったり…。自分、いつも職場に近い所に賃貸物件を借りるんで、家に帰って休むこともあった。
ある年の冬期講習前、1コマ目の授業がたまたま休みだった自分は、授業準備のために、午後、少し余裕を持って出社した。
玄関を開けようとすると、いきなり、「Teacher、おはようございます」と〇●が猛然と近づいてくる。
…嫌な予感しかしない…今日のプリント作り、間に合うんかな…。
人の気ぃも知らんと、〇●は、玄関先で、カバンから、答案用紙らしきものをごそごそ取り出す。
「センセ、ちょっと、ここなんやけど…」
「ちょっと待って。とりあえず、中で話そうや」
「すぐ、すむねん、すぐ、見て」
「自分の話、いつもすぐにすまんやんけ。ちょっと待てや、白板消すから」
昨日の最後の授業で書きなぐったままになっている白板をとりあえずきれいにする。
「今すぐやんな。ちゃんと教えてや」
「分かった」
しゃあないんで、コートも脱がずに、白板側の席に座る。
「で、〇●、何?」
教室の電気をつけ、いよいよ開戦だ。
「英語の定期試験の英作文なんやけど、『道案内』の問題が出たんや、ここ、ここ」
「おう、そうか。授業でもやったやつやん。」
「でな、ウチ、先生に『I’ll take you. 連れってあげるよ』って習ったやんか」
「おう、教えたな」
「うち、解答らんに『I’ll take you.』って書いたら『△』になったんや、どうしても納得いかん」
「はは~ん、〇●それは、自分らしくないミスやな」
…これって、「Turn right at the second traffic signal.(二番目の信号を右に曲がってください)」とか「Soon you will see the post office on your left. (すぐに左側に郵便局が見えますよ)」みたいなん駆使して作った英作文、学校の先生には、高評価なんやろな…道順を説明する問題ではあるけれども、「連れてってあげる」っちゅう、この子の考え方も、絶対に間違ごうている、とは言えんよな…
「えっ」
「あのな、『駅に行く道教えてください』『なら連れてきますよ自分』ってちょっと会話、ギクシャク過ぎへん?」
「そう言われれば…」
「確かに、I’ll take you (there). は文として正しいんやけど、ちょっと唐突よな、で、何で、いきなり、連れていく流れになるん?」
「え、ウチ…そんな…定期テストでそこまで考えるん、みんな」
「〇●、〇●の英語の実力で『3語』で会話終わらすのは、ちょっとさみしいよな」
「じゃあ、なんて書いたら良かったねん、Teacher」
…ヤバい、このままじゃ、また、キレられそうや…
「あのな、『駅までの道、教えて』って聞かれて、次のセリフが『ウチ、連れてくわ』ってなるとき、って例えば、どんな状況?」
「え?…例えば道順が複雑で説明できひんとか、自分がちょうど駅の方向に行くところやったときとか」
「それ書けば、ひよっとしたら、先生、〇くれたかも、やで。ほな、行くで、〇●、Can you tell me the way to the station? 」
「ちょっ、いきなり…Oh, I’m going to the station, so I’ll take you. 」
「ええね、つなぎの『so』が出るとこがさすが〇●よな。ちょうど駅に行くところと言いたいなら、『just』を使うて、I’m just going to the station. going は headingでもええよ。まさに、こういうときにピッタリなのが、『進行形』よね。私も、っていうなら、最後にtooをつければええよ。」
「もう一つの、道順が複雑で説明できひん、は結構むずくない?」
「そう?『~することは難しい』って文、この間、長文演習で出て来たとき、説明したよな」
「It…to構文? まず、『It’s hard 難しいんだよ』って決めてから
不定詞で『何することが』かを後ろから説明、この場合『あなたに駅までの道を説明することやから to tell you the way to the station 』
…最後に『言葉で』だから with words」
「全部つなげると?」
「It’s hard to tell you the way to the station with words.」
「ええんじゃないの? It’s hard to explain with words.とか、It’s not easy to tell you the way to the station with words.って言い方でも伝わるかもな。特に、It’s hard to explain with words. 説明しずらいよ、はあまり長くないし、使い勝手がええから覚えておいて損はないわな。」
「Teacherさ、もし、相手がメッチャ急いでたら、実際は、I’ll take you.も正解にならん?」
…コイツ、今日は食い下がるな…
「その場合もな、やっぱり I’ll take you. と3語で済ますんじゃなく、クッションを入れたらええ。急いでるようですが、みたいん、言える?」
「え、look? seem? 」
「それでもええけど、ま、もっと簡単に『be動詞』でいこうや。ヒントは、hurryや」
「分かった、You are in a hurry.やろ」→Deeple翻訳は、You seem to be in a hurry. You seem to be rushing. を推奨。
「もう少しカッコつけるか。『急いでますよね~』って、こういう時、便利なんが付加疑問文やな。」
「You are in a hurry, aren’t you? そして、I’ll take you.でいいん?」
「ええね。『if so,』 ってつけると格が上がるで。『でしたら、私が連れて行きましょう』になる」
「それ、カッコええね。You are in a hurry, aren’t you? If so, I’ll take you there. すご」
「他にも、自分、英語話すのが苦手やから、駅まで案内しますとか、ちょっと英語の練習相手になって欲しいので、駅まで一緒に行ってくれませんか、とか、ここら辺は地元じゃないんです、今日初めてきた町なんです、なんて色々…って、おい、〇●、聞いとる?」
…アカン、またコイツ、自分の世界に行ってもうたわ。
やばい、授業30分前や。ぬるなった珈琲を飲みながら、〇●の顔をみて、ビーヤマ調に「ヤメロオマエ」と言ってみる、もちろん、心の中で、だ。


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